生態と外見
コウイカ目コウイカ科コウイカ属の中型十腕類で、外套長 15〜45 cm・全長 25〜60 cm、体重 1〜4 kg 級。体色は灰褐色〜薄黄褐色で、皮膚の色素胞 (chromatophore) と虹色胞 (iridophore) を使って数百種の体色・縞模様を瞬時に変化させる。雄の繁殖期にはゼブラ模様 (zebra pattern) を雌へのディスプレイで示す。地中海・北東大西洋 (英国南岸からモロッコまで) の沿岸 (水深 0〜200 m) に分布。エビ・カニ・小魚を採食。
他分類との違い
同じく十腕類のヤリイカ類 (Loliginidae) と比べ、本種は外套内に石灰質の内骨格 (cuttlebone・甲) を持ち、より丸みのある体型を示す。近縁の南半球種 Ascarosepion apama (オーストラリアコウイカ) と比べ、体格は小さく分布が北東大西洋・地中海に限定される。同じくコウイカ科の小型種 Sepia elegans と比べ、本種は数倍大型。
名前の由来
学名 Sepia officinalis の Sepia はギリシャ語 sēpíā (イカ・墨を出す動物) に由来し、墨の色名 sepia (セピア) の語源でもある。種小名 officinalis はラテン語「薬用の・店で扱われる (officina = 工房)」で、墨が古代から染料・薬として商品化された歴史を指す (Linnaeus 1758 記載)。和名「ヨーロッパコウイカ」は英名 European cuttlefish の和訳。
興味深い特徴
cuttlebone は石灰質と気体を含む多層構造で、ガス量を調節して中性浮力を保つ生体浮力装置として機能する。皮膚の色素胞は神経直結で動作し、約 100 ミリ秒で体色を変化できる (色覚に対応する錐体細胞は持たないが偏光感受で「色」を識別する説が有力、Mäthger et al. 2009)。卵塊は皮を「葡萄」状に岩盤に貼り付ける。
明日使えるうんちく
cuttlebone は鳥籠用カルシウム供給材として広く流通し、ヨーロッパ各国で養殖の小鳥 (フィンチ・カナリア) のクチバシ研ぎ用に売られる。「セピア色」の語源で、19 世紀の写真現像や絵画インクの茶褐色色素として実際に本種の墨が用いられた。地中海料理ではイカ墨パスタの主原料の一つ。