生態と外見
食肉目セイウチ科の単型 (1 属 1 種) 大型海洋哺乳類で、雄は全長 3.0〜3.6 m・体重 800〜1,700 kg 級、雌はやや小型 (600〜1,250 kg 級)。最大の特徴は雌雄ともに発達する長大な犬歯 (牙) で、雄で 0.5〜1.0 m に達する。皮膚は厚く深いひだがあり、若齢個体は赤褐色、成体は薄茶色〜灰色。北極海全域 (大西洋・太平洋亜種に大別) の流氷域・浅海に分布し、底生二枚貝・甲殻類を主食とする。IUCN レッドリストでは Vulnerable (VU) 評価 (2016 年改訂)。
他分類との違い
食肉目鰭脚類 3 科 (アシカ科 Otariidae・アザラシ科 Phocidae・セイウチ科 Odobenidae) のうち本科のみ単型で、外見的にはアザラシ科に近いが、後肢を体の下に折り曲げて陸上歩行可能 (アシカ科共通) でアザラシ科 (後肢が後方固定で陸上で蠕動する) と区別。アシカ科と比べ耳介がなく、犬歯が極度に発達する点が独自。
名前の由来
学名 Odobenus rosmarus の Odobenus はギリシャ語 odous (歯) + bainō (歩く) の合成で「歯で歩くもの」を意味し、氷上で牙を支えに体を引き上げる行動に由来する。rosmarus は古北欧語 hrossvalr (馬鯨) のラテン語化で、英名 Walrus も同系。和名「セイウチ」は語源にロシア語 sivuch (本来トド Eumetopias jubatus を指す語) 由来説が有力。
興味深い特徴
牙は社会的地位の指標として機能し、雄同士の繁殖闘争で武器として、また氷上に体を引き上げる支点として、海底底生生物を掘り起こすツールとしても利用される多機能器官。口周囲の「ヴィブリッセ (洞毛)」は 400〜700 本ありビロード状の感覚器として濁った海底で二枚貝を識別する。1 日に 4,000〜6,000 個の二枚貝を口腔吸引で殻から抜き取って摂食する。
明日使えるうんちく
和名「セイウチ」の語源はロシア語 sivuch (本来トドを指す語) の借用で、明治初期に誤訳的に本種に固定されたとされる (大言海・新明解動物名語源辞典等)。古代の北極圏先住民 (チュクチ・イヌイット) では衣・住・食・骨道具の重要な資源で、現在も伝統猟が一部で続いている。北極海の海氷減少で繁殖適地と休息地が縮小しており、気候変動の影響を顕著に受ける種として国際的に注目されている。