概要
生態と外見
アザラシ科アゴヒゲアザラシ属の大型鰭脚類で、体長 2.1〜2.7 m・体重 230〜360 kg 級 (雌が雄よりやや大型)。体色は灰褐色〜暗褐色で、顔面に長く密生したヒゲ (vibrissae) を持つことから和名・英名が付いた。頭部は小さく丸く、前肢の爪が大きく発達して氷を割ったり海底を掘る行動に用いる。北極海・ベーリング海・チュクチ海・バフィン湾等の浅海・流氷帯に周極分布する。底生性甲殻類・二枚貝・底魚を主食とし、潜水深度は通常 300 m 以浅。IUCN レッドリストでは Least Concern (LC) 評価。
他分類との違い
同所的に分布する北極系のタテゴトアザラシ Pagophilus groenlandicus と比べ、底生性食性に特化し沿岸浅海の流氷帯を主な生息域とする点で識別される。同様にハイイロアザラシ Halichoerus grypus やゼニガタアザラシ Phoca vitulina と異なり、ヒゲが顕著に長く密生し、これを使って海底の獲物を探知する。
名前の由来
学名 Erignathus barbatus の Erignathus はギリシャ語 eri (強い・大いに) + gnathos (顎) で「大きな顎を持つ」、種小名 barbatus はラテン語「ひげのある」を意味する。和名「アゴヒゲ」は顎周辺の長いヒゲに由来、英名 Bearded seal も同じ。
興味深い特徴
雄の繁殖期発声 (trill) は鰭脚類で最も特徴的な水中音響シグナルの一つで、降下する音調が氷下を数 km 伝搬する。北極先住民 (イヌイット) にとって食料・毛皮・革靴 (ムクルク) の重要な資源で、底生生活由来の厚く堅牢な皮が雪上履物に最適とされてきた。
明日使えるうんちく
ホッキョクグマ Ursus maritimus の最も重要な獲物の一つで、本種の個体数と分布は北極海氷の変動と直接連動する。海氷の早期融解は両種に同時に影響し、海氷依存型生態系の指標種として保全生物学的に注目される (Kovacs et al. 2011)。
基本情報
Erignathus barbatus
エリグナトゥス・バルバトゥス
Bearded seal
ベアーデッドシール
