施設の特徴
市立函館博物館の特徴
函館の海・山・北方をまたぐ自然科学コレクション
市立函館博物館は、1879年に開場した「開拓使函館仮博物場」を前身にもつ、道内でも長い歴史をもつ総合博物館です。生物資料では、北海道内外の動植物標本に加え、函館港・津軽海峡・噴火湾・オホーツク海・サハリン周辺など、北方の海と陸に関わる標本が目を引きます。魚類ではハリセンボン、ウミスズメ、トクビレ、イシガレイ、カジカ類など、貝類では北洋・道南の海域に由来する標本、植物では函館山産のカタクリやヒメヤブランなどが記録されています。観光向けの大型展示に偏らず、函館という港町が集めてきた「北の生物記録」を見られる点が、この館ならではの魅力です。
標本の産地までたどれる、研究資料としての見せ方
展示方法の特徴は、生物を「きれいな標本」として眺めるだけでなく、どこで採集され、どんな地域環境と結びつく資料なのかを考えられることです。デジタルアーカイブで公開されている自然科学資料には、液浸標本、剥製標本、乾燥標本などの形態とともに、函館市、南茅部、七飯町、噴火湾、サハリン沖といった産地情報が添えられています。水槽やケージで行動を見せる施設ではありませんが、標本の産地を追うことで、函館周辺の磯・湾・山地、さらに北洋へ広がる生物相を地図のように読み解けます。
生きものを「飼う」より、地域の記録として残す博物館
市立函館博物館は、飼育下繁殖や生体展示を主目的とする施設ではありません。その代わり、標本を収集・分類・保存し、地域の自然を後世に残す役割を担っています。とくに菅原コレクションは、樺太・北海道・東北で採集された植物標本をもとにした資料群で、当時の北方植物相を知る手がかりになります。高川コレクションは北の貝類研究、森武コレクションは津軽海峡の海藻研究に関わる資料として位置づけられ、函館昆虫同好会や個人研究者から寄贈された昆虫資料も地域の昆虫相を伝えています。生体の繁殖技術ではなく、標本保存と調査研究によって生物多様性を支える博物館です。
70万点規模の収蔵資料が支える、道南の自然史の厚み
同館の収蔵資料は約70万点におよび、自然科学だけでなく歴史・民俗・考古資料も含む総合的な蓄積があります。だからこそ、生物展示も単独で完結するのではなく、昆布や漁業、北方交易、函館のまちの歩みと重なって見えてきます。たとえば海藻や貝、魚の標本は、津軽海峡の自然環境を知る資料であると同時に、函館の水産文化を支えた生物の記録でもあります。派手な演出よりも、標本一つひとつから「この生きものがどこにいて、人とどう関わってきたのか」を読み取る楽しさがある博物館です。
